『Chinese National Astronomy』掲載:店長・劉さんが参加した総露光320時間の「しし座三つ子銀河」共同撮影

今回、店長の劉が「しし座の三つ子銀河」共同撮影プロジェクトに参加し、その成果が『Chinese National Astronomy』誌に掲載されました。つきましては、同誌の承認を得たうえで、本文を日本語に翻訳し転載いたします。


店長の劉さんが撮影したしし座の三つ子銀河

 

共同撮影が明かす――レオトリプレットの潮汐ストリーム

深宇宙撮影ではいま、極めて暗い高難度ターゲットを狙う流れが強まり、それに伴って総露光時間も大きく伸びています。十数年前から、口径0.11 m級の望遠鏡で合計100時間以上を積み上げ、銀河外縁のハロー構造を捉える試みが行われてきました。2022年には、M31の近傍で偶然 [OIII] のアークが見つかり、より細部を確認するために単一チャネルのナローバンドで100時間を超えるデータが撮影されました。さらに2024年には、M31および周辺領域の [OIII] 分布を掘り下げる目的で、総露光が1000時間を超える画像も登場しています。

しかし、多くのリモート観測所では晴天率の制約により、単一ターゲットへそこまで長時間を投じるのは簡単ではありません。では、それをどう実現するのか。答えは「共同撮影」にあります。すなわち、類似の機材で同一ターゲットを撮影し、得られたデータを統合してスタックすることで、総露光を大きく増やし、非常に高いS/Nの画像を得る方法です。これは後処理(芸術的な仕上げ)の自由度を広げるだけでなく、極端に暗い未知の天体や構造を発見する機会も与えてくれます。

2024年に、私たちは、しし座三つ子銀河を対象にした長時間露光を目指す共同撮影へ挑戦しました。以下では、その試行過程と結果を踏まえ、共同撮影プロジェクトに対する私たちの理解を共有します。

 

共同撮影に向くのはどんな人?

共同撮影は、数多くの細部を同時に調整・調整する必要がある作業で、どうしても抜け漏れが起こりがちです。そのため、プロジェクトの責任者が撮影タスクを決めた後は、実行段階を各参加者が独立して完結できる形にし、コミュニケーションコストをできるだけ下げるのが望ましいと言えます。参加者自身が十分な技術を持ち、撮影時の運用から前処理・後処理までを素早く自走できることが重要になります。

今回の共同撮影プロジェクトには17名の参加者が集まりました。全員が長年の深宇宙撮影経験を持ち、国際的な天体写真コンテストで受賞歴のある方も複数含まれています。

 

どんな機材を使うべきか?

機材の選定は、共同撮影のターゲットに依存します。小さな対象の内部ディテールを狙うなら、大口径・長焦点の望遠鏡が有利です。一方、非常に暗い対象を狙うなら、短焦点かつ明るい(低F値)望遠鏡が適しています。これらの機材は、可能であればリモート観測所に設置するのが理想で、環境と運用効率の安定につながります。

屈折望遠鏡やシュミットカセグレンでの共同撮影は、難易度が最も低いケースです。これらは回折スパイクが出にくく、光軸も比較的安定しているためです。それでも、口径・焦点距離・視野、さらにはカメラの回転角まで、できる限り揃えておくべきです。そうしないと、後処理で解像度調整や視野合わせに多大な手間がかかります。

反射望遠鏡を使う場合、大きな問題として回折スパイクが入ります。副鏡支持は45度配置と0度配置があり、スパイクの向きは45°ずれます。たとえ配置が統一されていても、鏡筒バンドへの取り付け角などによりスパイク角を完全に揃えるのは難しく、複数素材を重ねるとスパイクが二股に見えることがあります。

「星消し」で置き換えればよいかというと、必ずしもそう単純ではありません。重ねた後のスパイクは整っていないことが多く、星消しによる痕が残りやすいからです。もちろん、合成前に全フレームを位置合わせしたうえで逐次星消しを行えばスパイク問題は抑えられますが、何万枚もの高画素画像を処理することになり、PCが十数日連続で回り続ける可能性もあります。

本プロジェクトは探索的な目的もあり、屈折・反射・屈折反射など多様な望遠鏡を併用しました。取り付け精度を高めた結果、スパイクの分岐は最小限に抑えられましたが、拡大すると分岐痕が確認できる程度には残りました。


Author

Telescope

Sensor format

Xingche Jia

Epsilon-180ED

Full-frame

Weitang Liang / Qi Yang

TOA150

Medium format

Supeng Liu

TS-ONTC8

Full-frame

Yanzuo Liu

Epsilon-160ED

Full-frame

Xin Long

Epsilon-160ED

Full-frame

Yang Peng

FSQ106

Full-frame

Tommy

FSQ106

APS-C

Yaguang Wan

Epsilon-160ED

Full-frame

Binyu Wang / Runwei Xu

TOA130

APS-C

Shengning Wang

Epsilon-160ED

Full-frame

Zhuoxiao Wang

RASA11

APS-C

Junjie Wu

Epsilon-160ED

Full-frame

Dong Yuan

Epsilon-180ED

Full-frame

Shaoyu Zhang

130SAP

Full-frame

Xi Zhu

Epsilon-160ED

Full-frame

 

何を撮る?

共同撮影は、背景がクリーンな領域で新しい天体構造を探す用途に向きます。あるいは、既知天体が密集する領域でも、特殊なナローバンドフィルターを用いて、その中に埋もれた新たな放射星雲を探す、といった使い方もできます。

今回の共同撮影構想は2024年初頭に立ち上がりました。冬季末で撮影可能時間が短いことから、より適した春の銀河を狙う方針にしました。参加機材の多くが明るい光学であること、また全員の視野にターゲットが完全に収まり、かつ新構造探索の余白が確保できることを考慮すると、最適なターゲットは「銀河を取り巻くストリーム、銀河ハロー、あるいは淡い星雲」を狙える対象になります。

選定の結果、私たちはしし座三つ子銀河をターゲットにしました。なかでもハンバーガー銀河” NGC 3628 には長い潮汐尾があり、隣接するM65M66との相互作用の結果である可能性が示唆されます。では、この3者の間に、さらに微弱で未発見のストリームやハローは存在するのでしょうか?

 

役割分担はどうする?

参加者が多く機材も多様な共同撮影では、「各人に特定フィルターを割り当て、単一チャネルを数十時間撮ってもらう」という方法がよく考えられます。ただし、これは必ずしも最適解ではありません。

第一に、各人が単一チャネルだけを担当していると、天候や機材トラブルでその人のデータに問題が出た場合、統合段階で初めて気づいても他者データでは補えず、カラー合成そのものが破綻しうるからです。仮に予備チームを用意しても、問題のあるチャネルは有効露光が不足し、チャネル間のS/Nバランスが崩れて最終品質に影響します。

第二に、共同撮影は「全員が義務としてタスクを完遂する」形にしない方がよい、という考え方もあります。理想は、すでに撮影・処理を終えて眠っている既存データを集約し、過去データの鉱脈を掘り起こすことです。ただし、このやり方では新規データの量が十分に集まらないこともあり、機材や品質のばらつきも大きくなりがちです。

そこで今回私たちは、両者の中間を取りました。良い循環を狙い、**「各自が本当に撮りたいターゲットとして撮影し、各自の手で独立作品まで仕上げる(共同撮影が成立しなくても個人作品は成立する)」**という運用です。この方式には、各自が前処理まで済ませたデータを受け取って位置合わせ・統合するだけでよく、前処理を統一しなくて済む利点があります。各自のキャリブレーションファイルが混ざる事故も防げ、並列で進められるため時間短縮にもつながります。

 

データの取りまとめはどうする?

各参加者がダーク・フラット・バイアス補正を行い、加えてコスメティックスコレクションしておくと、目立つノイズを避けられます。次に、位置合わせの前段階で、全画像を一人に集約して二次選別を行います。ここでは肉眼で素早くチェックし、問題のある素材を排除します。たとえば雲の影響で他者データと比べて明らかに質が落ちるものは、統合に使えません。

さらに、機材が多様で視野や解像が大きく異なる場合、最終アラインメントの前に、各人のL画像を1枚ずつ選び、モザイクとして合成して「全員の視野を覆う参照画像」を作るのが有効です。その参照に合わせて全画像をアラインすれば、情報を最大限に残しやすくなります。

今回の共同撮影では、17名から合計500時間超のデータが集まり、選別の結果、最終的に約320時間分を採用しました。

 

隠れた天体を深掘り

銀河画像ではRGB3チャネルの強度が比較的均一で、輝線星雲のような全体的な色偏りが出にくい傾向があります。そのため、RGB画像をL画像と混ぜて統合し、Master L を作ることができます。このMaster Lは全チャネルの露光を含むため、RGB合成だけよりもS/Nが高くなります。

Master Lを星消ししたうえで強いストレッチとノイズ低減を複数回行い、さらに反転(ネガ化)して、極めて淡い構造の掘り起こしに用いました。その結果、しし座三つ子銀河の背景は非常にクリーンで、IFNIntegrated Flux Nebula)もほとんど見られませんでした。一方で、M65NGC 3628の間に、非常に微弱な帯状構造が確認できました。多くの光学系で到達しにくい面輝度レベルのため分光データは得られず、明るさと形状から潮汐ストリームである可能性が高いと判断しました。

また、M65M66の銀河ハローの広がりは想定以上で、両者の間に重なり領域があり、物質交換が起きている可能性も示唆されます。さらに右側の恒星HD98388の近くに、パイプ状のような痕跡が見え、遠方の銀河とつながっている可能性もありますが、成因は不明です。明るい恒星に極めて近いため、恒星の光暈である可能性も否定できません。

Editor: Yueyang Han
Author: Xingche Jia, Deep-sky astrophotographer.

 

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